名古屋大学循環器内科

研究室紹介

研究室紹介

再生グループ

私たち名古屋大学循環器内科再生グループは、「重症虚血肢に対する血管再生療法」に関する “トランスレーショナルリサーチ(基礎研究による開発から臨床導入までの一連の研究)”を中心に、研究に取り組んでおります。従前より、本研究チームは理論に基づいた度重なる検証実験を経て、世界に先駆けて「骨髄単核球細胞移植による重症虚血肢に対する血管再生療法」を臨床導入し、その成績を世界に発信してきました(Lancet. 2002, Circ J. 2007, Am Heart J. 2008, Circ J. 2018, Circ J. 2019)。

現在は、皮下脂肪から分離することができ、骨髄中に存在する間葉系前駆細胞と同様の血管再生能力を有し、かつ、臨床的には比較的容易に大量に採取できるなどの優位性を持つことから、新規細胞供給源として期待される“脂肪組織由来間葉系前駆細胞(Adipose-derived regenerative cells; ADRCs)”に着目し、このADRCsを用いた循環器疾患における基礎再生研究と血管再生療法の臨床応用に取り組んでいます。2012年に厚生労働省により『ヒト皮下脂肪由来間葉系前駆細胞を用いた重症虚血肢に対する血管新生療法についての研究(ヒト幹指針)』の実施計画が認可され、ADRCsを用いた臨床試験を当科で開始しました。このパイロット研究で5例の患者への血管新生療法を経たのち、『再生医療等の安全性の確保に関する法律』に則り、2015年11月より名古屋大学を研究統括機関とした(全国8施設からなる)多施設共同研究を展開し、現在も進行中であります。この研究は、従来のいかなる治療にも反応しない難治性の重症虚血肢症例を対象とした臨床研究ですが、他に治療選択肢がなく、このような治療を希望する患者がみえましたら、是非、当科へご相談ください。

基礎研究としては、細胞実験・動物実験での、新規分子標的による血管新生・リンパ管新生の調節に関する研究や、循環器疾患の病態下における組織リンパ管に関する研究、時間生物学的な観点からの血管新生研究、ADRCsに対するダイレクトリプログラミングを用いた応用研究、ADRCsが分泌する心保護に関与するエクソソームの新規同定などの研究に取り組んでおります。また、他研究機関との共同研究として、医療工学の手法を用いた再生医療の開発などにも取り組んでいます。

Bedside-to-bench, bench-to-bedsideをモットーに、私たちの基礎研究の成果が最終的には多くの患者さんの元に届けられますように、日々励んでおります。

糖尿病性心筋症グループ

心不全と糖尿病は双方向性に影響を有する病態である。1970年代に初めて糖尿病性心筋症の症例報告がなされて以来、糖尿病患者では心不全発症率が、糖尿病が合併しない心不全患者にくらべ有意に高いことや、糖尿病はじめとする糖代謝異常の有病率は心不全患者で有意に高く、心不全のタイプ(すなわちHFrEFかHFpEFか)や虚血性心疾患の合併の有無とは独立して、糖尿病が心不全発症のみならず心不全患者の生命予後悪化リスク因子であることが報告されてきた。その作用機序について、未だ不明な点も残されている。我々は、臨床の視点から、心不全と糖尿病の病態に関するメカニズムを基礎的アプローチで明らかにすることを目指している。

基礎研究グループ(心不全、心筋梗塞)

心不全・心筋梗塞の治療は日々進歩していますが、その病態については不明な点も多いです。疾患発症機序の理解を深め、新たな治療法の開発を試みています。


受容体と心不全について

受容体は細胞外の情報を細胞内に伝達し、治療薬の主なターゲットとして研究されてきました。Gタンパク質結合型受容体の一つであるCRHR2が心不全の心臓に高発現することを見出し、心筋特異的CRHR2欠損マウスでは心不全の発症が抑制されました(J Exp Med. 2017年)。CRHR2阻害薬をマウス心不全モデルに投与したところ、心不全が有意に改善いたしました。また、心不全患者では血中CRHR2アゴニスト濃度が上昇することも明らかになりました。以上のことから、CRHR2が心不全の新規 検査法と新規治療薬の開発へ貢献することが期待されます。産学連携研究によりCRHR2阻害薬(内服薬)を開発し、現在、臨床応用に向けた研究に取り組んでいます。


リン酸化酵素と心不全・心筋梗塞について

細胞内の情報伝達の方法の一つに「タンパク質のリン酸化」という反応があります。「タンパク質のリン酸化」はタンパク質の構造を変化させ、その機能を発揮します。心筋細胞内では、低分子量RhoAの下流で働くプロテインキナーゼNが転写因子をリン酸化し、心不全発症に関与する遺伝子発現を促進することを見出しています(Circulation 2019年)。また、プロテインキナーゼAによるGirdinのリン酸 化は心臓繊維芽細胞の増殖及び遊走能の制御を介して、心筋梗塞後の組織修復に必要なコラーゲ ン産生に重要な役割を果たしていることを見出しています(J Mol Cell Cardiol. 2015年)。


細胞外粒子と循環器疾患について

細胞治療は新しい治療法として注目されています。細胞治療に用いられる間葉系幹細胞は、心筋保護に関与する可能性がある因子を産生及び分泌することが知られていますが、その因子が含まれる細胞外小胞の心筋細胞への取り込みメカニズムは明らかではありません。間葉系幹細胞の1つである脂肪由来再生細胞(ADRC)から抽出した細胞外小胞を用いて、心筋細胞への取り込みメカニズムを検討しました(J Biol Chem. 2019年)。心筋細胞においてクラスリン依存性エンドサイトーシスが、アポトーシスを阻害する細胞外マイクロRNAの取り込みに重要な役割を果たしていることが示されました。損傷した心筋細胞に、マイクロRNAが優先的に運搬されることを明らかにしました。
この研究成果をもとに、循環器疾患の治療・診断に向けた細胞外粒子の応用研究を進めています。

分子循環器医学寄附講座の研究概要

我が国において、肥満(特に、内臓脂肪の過剰蓄積)を基盤とした代謝性疾患や心血管疾患を含む生活習慣病対策は重要な健康課題であり、生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底は厚生労働省の健康政策としても掲げられています。

近年、液性因子や神経性因子による臓器間ネットワークによる疾患制御機構が注目されています。その中でも、脂肪組織は「アディポサイトカイン」と総称すべき生理活性物質を分泌する内分泌臓器であり、アディポサイトカインが近傍や遠隔臓器に直接的に作用することにより、肥満を基盤とした疾患制御に関与することが明らかになってきました (Ouchi N. et al. Nature Rev. Immunol. 2011) 。しかし、アディポサイトカインを介した生活習慣病の発症・進展メカニズムについては十分には解明されていません。また、近年の研究成果によると、骨格筋は「マイオカイン」と総称すべき液性因子を産生する内分泌臓器としての役割を果たし、マイオカインが生活習慣病の病態に関与することが明らかになってきました(Ouchi N. et al. Circ J. 2016)。

本寄附講座では、アディポサイトカインとマイオカインの機能解析を行うことにより、動脈硬化や虚血性心疾患をはじめとする生活習慣病の病態解明と新たな予防法と治療法を開発することを目的とした研究を行なっています。特に着目しているアディポサイトカインは私達が同定し命名しました「アディポリン」です。私達は、アディポリンがインスリン感受性促進作用や血管保護作用を有することを明らかにしました。現在、遺伝子改変マウスを用いて生活習慣病全般におけるアディポリンの役割の解明と詳細なメカニズムの解析を進めています。また、心血管保護作用を有するアディポサイトカインである「オメンチン」についての機能解析も進めています。マイオカインに関しては運動誘発性マイオカインである「マイオネクチン」が心筋保護作用を有することを明らかにしており、血管病を含む生活習慣病における役割についての解析を進めています。さらに、機能が明らかにされていないアディポサイトカインやマイオカインの探索研究も継続して行っています。このように、本寄附講座では、新規性が高く独創的な基礎的研究を継続し、生活習慣病に対する創薬開発につながる基盤的研究を実践しています。

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